#108.とらおくんたち③湯河原騒動

 車庫に住みついたとはいえ、そこは交通量の多い道に面しています。とらおくんが、どんな拍子に道へ飛び出してしまわないか心配でした。
 しかし、日中、餌を与えたりしていたお袋の観察によると「利口もんだよ。車庫から出ようとしないもん。お父さんが帰ってくるとすぐにタイヤの上に乗ってじっとしてるんだよ」とのこと。「あんなに人に慣れてるから、野良猫じゃなくて誰かが置いていったんじゃないかね」とも言っていました。迷い猫ということも考えられましたが、ずっと謎のままです。
 ただ、ここでひとつ問題が発生しました。正月に車で親父とお袋を連れて、妹夫婦一家も帯同、湯河原の温泉に行く計画があったのです。この真冬に、とらおくんは空になった車庫で寒さをどうしのぐのか?ということです。
 妹夫婦と協議しました。親父とお袋を乗せた親父の車をおれの運転で先に出す。その後、毛布と充分な餌を入れた大きい段ボール箱を車庫の家側壁角に配置する。その後、妹夫婦一家の車が出発する、としたのです。この企みはうまくいきました。二泊三日、湯河原から戻るまでは、ということです。
 湯河原から戻ると、車庫の中が大変なことになっていたのです。散乱する段ボール片、猫餌、ひきちぎられた毛布。さんざん荒れていたのです。
 親父が激怒。「これは、とらおくんの仕業じゃないよ。きっと、餌を目当てに近所の野良猫がやったんだよ」とのお袋のフォローも効果なし。
 「餌やるなって言っただろう。名前なんかつけやがって。猫なんか飼いやしねえぞ」親父の怒りは収まりませんでした。
 結局、おれが連れて帰ることになったのです。一介サラリーマンの車庫住みからSSBであるおれの飼い猫になったのですから、まあいいじゃんか。とらおくんにそう話すと、ミャーと鳴きました。
 おれが、旧米軍ハウスに住んでいたということも好都合でした。周囲に緑がたくさんでしたし、車通りも多くなかったからです。とらおくんを、ハウスから出入り自由にさせました。近隣には野良猫が何匹もウロウロしていたのですが、遭遇したとらおくんは猫パンチを繰り出し、相手に腹を見せてジャレているのでした。狂暴との噂だった地域のボス、左目の上に傷があるシロとの関係も良好そうで案心したのであります。
 とらおくんは、外から帰ってきてドアが閉まっていると、ドア前でミャーミャー鳴いて知らせるのです。それに気づかなかったり、留守にしていたりすると、南窓外にあるエアコン室外機の上に乗って待っているのでありました。
 月に二、三度、とらおくんをシャンプーしたうえで、猫砂トイレを持参、伏せがちのお袋を見舞いました。親父が勤めに出ている日中を、お袋はとらおくんとすごしたのです。とらおくんは、かつてしばらく面倒をみてくれたお袋を覚えていたようで、ずっとそばにいたようでした。 つづく