腹が減ってしまった。家の中には林檎一個と鯖水煮缶と、あとカップヌードル一つしかない。たばこはあるし、酒もある。缶ビールは常温で充分に冷えているし、芋焼酎をお湯で割ればさんざん飲めるくらいある。
左ひざが痛いし、この寒い中どこかに何かを食いにいく気力がない。さあ困ってしまった。徒歩五分の日髙屋に行くのも億劫だし、最寄りのコンビニにも行きたくない。
前回ここに「東京地方はもう春の予感」などと書いたら、それからずっと寒い毎日。週間予報でもずっと最高気温が低空飛行で冬らしい冬ということだ。先走りして呑気なこと書いたから冬女神の逆鱗に触れて罰が当たったのか、まいった状況なのである。当分寒そうな毎日。廃品回収の車も来なくなってしまった。
乾燥も続いていて、荒川水系や利根川水系の貯水量が低く、例年は貯水率が安定的といわれている神奈川県でもピンチなんだとよ。安住くんが言っていた。でもさ、年間降水量って毎年概ね同じレベルなんだろ?ということは、一気にドカっと降るってことだよな。この季節だったらドカ雪ってことだ。近所に住むのが年寄りばかりになってしまい、雪かき五軒分の恐怖。歩道の雪かきにほぼ一日かかって、その後一週間に渡る筋肉関節痛に見舞われる。体調のせいか気が塞ぐぜ。毎日雪かきしないと玄関が埋まって外にも出られない豪雪地帯のひとたちのことを考えれば安直な悩みだろうけれど、そんな状況に慣れていないからな。
しかたなく、部屋から一切出ずクソまずい飯となった。いい歳こいて虚しい飯。
いつか、まだ若いころ、面倒見のいい同級生にスキーに連れていってもらった。パウダースノーの草津に、である。二泊三日、生れてはじめてのスキー体験ではあったものの、装具の装着からボーゲン滑降法、転倒時の心得等まで手取り足取り教わって最終日には頂上まで登って麓まで下りてこられるまでになった。
その最終日、この三日間の最終最後のトライだ、といって乗せられたのが山頂行きのゴンドラであった。出発時間を待つまでの束の間にカップヌードルを皆して食った。それがうまっかった。パッケージを見て思い出した。
これから死ぬまで、あさま山荘事件などのような状況場面に遭遇することはないだろうし、たぶんこれまでで一番うまかった一品のひとつといって過言ない。いろいろな味わい種類ヌードルが増えて、それらを食べることはあるけれど、ド頭のノーマル醤油味ヌードルが一番うまい印象。フグも馬刺しも敵わない。
何をではなく、誰と、いつ、どこで、どんなふうに、というのは重要な要素なのですね、あらためて思い知ったのであります。
そのときスキーに連れていってくれた同級生とは、いまだに付き合いがあって、年に何度か会っている。互いにいい歳はこいたけれど、何かと傷だらけの人生ではあるのは一緒だ。すげーいい奴。しかし、今日食った飯のこの話はできないな。だって、惨めだし、すごくクソまずかったんだもん。