#097.貧乏人のバタフライ効果、下

 妹のミニクーパー購入計画に付き合ってやるとは言ったものの、ネット情報だけでは、その選択肢が多い分まるで難解。だいいち、パーツやら表示の語彙すらわからないのです。まったくもって困ったことになってしまったのでした。そこで、販売店を営む車の師匠を訪ねました。
 師匠の店は、近隣の街道沿いにあります。いつもその前を通っていて、ショールームに展示してある車に目がいっていました。オープンカーが並んでいたからです。ずっとハイエース人生を歩んできた身として、オープンカーは垂涎憧れの存在であったのです。
 街道沿いマンション一階部分ぶち抜き、オープンカーたくさん並べてますけどなにか文句ありますか?的の堂々とした佇まいでした。だから入りづらかったのです、敷居が高かったのですね、とっても。
 けれど、いまから10年前、ハイエース卒業祝いで思い切って入ってみたのですよ、その店に。それでもって、ほぼ衝動的に買ってしまったのですね、ローン組んで。しかし、その車はとっとと二か月で飽きて、さらにローン上積みで別車に買い替えたのです。さらにさらに、そういったことをのべ三度繰り返しました。
 膨らむ一方のローン額、長年にわたる返済の月日。そんなのですから、金なんて貯まるわけありませんね、至極もっともな事象です。
 その師匠に「ミニクーパー」案件の指導を乞いました。どんなものでしょう?どう進めたらいいでしょうか?と。
 師匠は、各種資料を基に、さまざまな角度から解析くださいました。「ミニクーパー」の歴史、時代的指向性、所有した際のメリット&デメリットについてもです。そして、具体的に購入へ至るまでの道しるべを示してくれました。さすが師匠です、おぼろげながらでも基礎知識が備わったのですから。
 師匠が自らコーヒーなど淹れてくれるものですから、ついつい長居になってしまいました。「お腹空いたでしょう、お昼でも食べにいきませんか」的に。
 なぜそんなに、それこそ3時間も4時間もそこにいたのか?それには理由がありました。どうしても、そのシュールーム中央に置かれていた車にそそられていたからです。何度となくふり返って見て、席を立ち、前後左右車内ステアリングの握りなどを味わってしまったのでした。挙句の果てに試乗まで。
 攻撃的な操作性でした。現在乗っていた車が、居住性に優れたやわらかいそれだったので、違いが劇的に如実でした。困ったことになったものです、その場を離れられなくなってしまったのですから。妹の車購入の指導をもらいに来たのにもかかわらず、不意に出会ってしまったのでした。師匠もご商売、思うつぼでした。…もう後には引けません。…仕方ないですよね。いい歳こいて挑戦的ドライブな車に乗ることになるとは。さらに金など貯まるわけはありませんね。
 ばかです。まったくもって。