#062.ふかく陳謝します

 妹よ、襖一枚へだてて寝たことはないけれど、雪のような花嫁衣裳とお色直しに薄桃色のドレスを着たよな。酔っ払っていたからよくおぼえていないけれど、写真に残っている。
 妹よ、長い年月が経ち、お袋も親父も死んで、信用できるのはおまえひとりだけになってしまった。
 妹よ、味噌汁はつくってもらったことがない、とは思うけれど、いつもタッパーに入れておいしい惣菜をありがとう。
 ものごころついたころ「こんど産まれてくるのは弟がいい?妹がいい?」などと周りに聞かれまくって、弟がいい、キャッチボールするんだ。もし女だったら川に捨てる、などと言っていたのであった。だから、よちよち歩くようになって、いつも後ろをついてまわるおまえがうっとうしかったのだぞ。しかも、なにかあればドヤされるのはおれの役回りというのも困ったものだった。
 昔むかし、二軒長屋の裏の庭先に大きな鶏小屋があって、大量に鶏が飼われていたよな。おまえは、その小鶏たちを可愛がって、いつも金網越しに野草をあげていたのだ。おまえが、まだ幼稚園児のころだ。
 だけど、その鶏は、大きくなると毎年大量に入れ替わっていたのだな。でも、おまえはまだ小さかったから、春先に大量に入れ替わる鶏の謎が不思議だったに違いないよな。
 おれは、おまえより年上だから、どうしてそういうふうなことが起こるのか、を知っていたのだ。だから「…おまえ知ってる?ぴーちゃんたちは全員、さくらまつりのときに絞殺されて、さばかれて、屋台の焼きとり屋で焼かれて売られて、みんな食われちゃうんだぞ」と教えたのだな。さくらが咲くと思い出すぞ。
 その意味を理解したのかしなかったのか、おまえはそれ以降、金網越しぴーちゃんたちに野草をあげなくなったよな。生きものを愛でるこころをくじいて申し訳なかった。おまえが、その周囲を整えて観察していた蟻の巣にバクチクを突っ込んで破壊したのも、実はこのおれなのだ。
 サンタクロースなんていない、あれは親父かお袋が、おれたちの寝入ったあとにやっている行為だ、と諭したのもおれだ。幼い夢を壊して大変申し訳なかった。
 妹よ、あいつはおれの友達ではないし、いい奴かどうかなんてわからない。だから、がまんできなくなったらとっとと別れてしまえ。あいつが野垂れ死のうがどうだろうが、おまえの幸せの大勢に影響などないのではないか?
 妹よ、真面目につましく働いて貯金して買って、綺麗に乗っていた「白いワーゲン・ビートル」「クリーム色のシティー・ターボⅡ」「緑色のエスクード・ノマド」および「赤いチェロキー」を借りまくって乗りまわし、ことごとくブッ壊して申し訳なかった。
 妹よ、ここにふかく陳謝いたします。