#061.自由業の履歴書外伝、うまかった食パン

 主作用が生じれば、かならず副作用を伴うもの。それは、森羅万象あまねく、のものであろう。しかし、それを知るには時として長い年月を要するものだ。どんなポンコツ、ボンクラ、アホにもその時はやってくる。
 楽器機材の搬送がハイエース一台では足りなくなり、もう一台増やして、さらにメンバー移動用の普通乗用車まで所有するようになった。忙しい現場では、その三台がいっぺんに出動していたのだ。
 運転するのはそれぞれ別の者なのだが、こいつらがしょっちゅう駐車違反をした。当時、路上駐車を取り締まるけーさつの武器に、バックミラーに取り付ける輪っかがあった。それを現認した運転者は、そのけーさつ署に出頭し、違反手続き後に取り外してもらう仕組みになっていたのだ。
 しかし、皆々それをことごとく無視。輪っかなどすぐさま切断、廃棄処分としていたのであった。当然、そのツケはすべておれにまわってくる。なんせ、その車三台の所有名義はすべておれであったのだから。
 方々のけーさつからよく電話があったが、いつも正直に「運転していたのはおれではない」とし、「それが誰であるか、などと特定もできない」としていた。ずっとその繰り返し。
 ある年の瀬の早朝、それはなんの前触れもなく突然やってきた。三名のけーじさんにドアを強めにたたかれて起こされた。逮捕するのだという。さっさと服を着ろ、便所には行っていいが顔なんか洗わなくていい、とのことで「まあ、儀式みたいなもんだからよ」といって手錠をはめられ、胴回りを縄で縛られた。そして、そのまま覆面パトカーに乗せられ、立川の検察庁に連行されたのだ。
 対面したけーさつ官は「なんで無視しつづけたんだよ?…腹減ってねーか?朝飯食ってねえんだろ?カップ麺でも食うか?」と言うのであった。朝からカップ麺なんか食えるかよ、的に。
 しかたなくおれは、駐車違反の何件かを認めることにさせられ、のべ五万円強の反則金を支払うことを約した。だれかがその五万円強を届ければ解放、とのことで、その場の固定電話で女に届けるよう手配した。
 検察の申し渡しまで時間がかかる、とのことで入れられたのが牢屋だった。そこには、同様に検察官から呼び出しを待つ数名がおり「なにやったんだ?」などと聞いてくる。「…なんでえ、交通か」などとにべにもないのであった。
 昼飯ということで、牢屋の中に昼食が配された。それは、たぶん六枚切り大の食パン二斤と、プラスティック容器に入れられた白湯であった。一枚食ってみたが、うまかった。…もしかしたら、うまいパンを焼くと噂の「府中刑務所」ものか?とも想像した。残り一枚は、横にいた男が「食わねえのか?じゃ、もらうぞ」とさっさと食ってしまった。はたして、夕飯はどんな食いものなのか?と興味津々であったが、それを食うことはなかった。