ゲーム音楽方面にやたら忙しくなった。とはいえ、次々と発売される各メーカーのゲーム機コントローラー操作にはついていけない。仕方がないので、事務所の女にゲーム試作版をやってもらい、おれは酒を飲みながらそれを観ている状態。RPGだろうがバトル系だろうがシューテイング系だろうが、何であれとにかくそれをコンプリートせよ、と。
あるとき、右往左往の末、音楽集CD製品発売まで至ったゲームタイトルがあった。やっと、やっとのことでマスタリング作業を迎えたのだ。
発売期を押しに押したので、レコード会社のディレクターは喜んだ。「…もうギリです。ズルしてプレス順番を強引に横入りさせました。このまま寝ないでCDプレス工場に持参します。助かりました」と。
ところが、である。夕方に京都から電話があった。そのタイトルは京都の会社もので、その社は全国に営業所があるものの、決済はすべて京都本社なのであった。「…12番目の音源、差し替えてくれはりますか?その音源はこちらにございますので。よろしゅうおたの申します」はんなりと言われた。
さあ大変だ。すぐに事務所に架電、京都往復で果たして今日中にその行為行動が間に合うのか?を調べさせた。すると、間に合う、とのこと。ただし、東京駅19時過ぎ発の下り「のぞみ」に乗り、すぐさま取って返して京都から戻る必要あり。京都駅到着から最終21時過ぎの上り「のぞみ」までの時間は20分間とのこと。…20分。その事情を説明すればいいのだが相手は横綱、おれは入門したてのやっと序二段といった関係性からして、ものなど言えないのであった。
その社は、京都駅からタクシーで10分程度。新幹線コンコースからの道程を加味すると、どう考えても時間が足りない。悩んでいる前に「のぞみ」に飛び乗った。そして、新幹線車内で車掌をとっ捕まえて、京都駅コンコースの配置形状およびタクシー乗り場の位置を詳細に取材した。京都駅から最短でタクシーに乗るにはどの車両のどの扉からダッシュすればいいのか?をだ。
しかし、どう考えても最短で30分強。そうすると、最終「のぞみ」には乗れず、本日中には東京に戻れない。「…この機を逃したらおれは地方に飛ばされるところでした」レコード会社ディレクターの言葉がリフレインする。
名古屋を前にして事務所に架電、もうだめだ、とした。
すると、その電話に出ていた女が言ったものである「うちのお姉ちゃんが京都に嫁に行っていて駅近くに住んでいます。お姉ちゃんに頼んで、先回りして音源を手に入れさせ、新幹線上りコンコースで待ち伏せさせればいいんじゃないですか」と。…こ、こ、こんなことがあるのか。…脱力した。
そうして、夜半に東京へ戻ったのだ。レコード会社のディレクターは、それを涙目で迎えたのであった。短時間緊張集中興奮的「のぞみ」缶詰状態の影響からか、それから二、三日、耳が「ピー」と鳴っていた。 つづく