#045.たたかうバアさん

 うすら寒いのは困った問題です。寒いなら寒いで徹底的に寒くなってくれれば諦めもつくのに、暖冬だとかで日中が暖かいと、朝晩の寒さが際立ってしまう。寒気に過敏になっちゃうのね、きっと。
 うすらバカも問題です。ときどき、そういえば的にバカって気づく奴いるでしょ?あっ、そうだ、こいつバカだったんだ、と痛い目にあうのはこっちのほうなわけです。うすらバカは、まったくもって扱いづらい感じがします。バカならバカで、完全にバカのほうが付き合いやすいですよね。
 うすらハゲも嫌ですね。ハゲるなら、とっととさっぱりハゲちゃったほうが堂々としていて気持ちがいい気がします。どうでしょうか?困った問題です。
 夕方、出がけに近所の小ぎれいなバアさんが、歩道に面した車庫の支柱を棒切れでカンカン連打しているのを見ました。笑顔の会釈が上品なバアさんであったので、見てはいけないものを見てしまった気がしたわけです。
 老病死は避けて通れない、ということがなんとなくわかってきました。そういう齢になったということなのですが、悩ましい問題です。
 ボケるのなら、完全にボケてしまえばもうこっちのもんです。だけど、中途半端に、まだらにボケたりした場合は切ないだろうな、やるせないだろうなと思うのですね。
 「進行していますが、治療に勤しめば延命の可能性があります」などと言われたらどうしよう?などと考えることがあります。いっそのこと「手遅れです、余命6か月でしょう」とか言われたほうがはっきりとしていて受け容れやすい気がします。だから、健康診断なんか行かないもんね。もし、そう告知されたら、即刻カナダに移住、飛びまくって暮らすのです。空を、じゃないですよ。
 くたばっても、葬式なんか一切不要。直葬でOK。そのうち、骨の欠片を塩の山の頂上に撒いてくれればよし。戒名なんかいらないし、読経も無用。禅寺屋のオカアが、金のことなどグズグズ言ったらためらうことなく墓じまいせよ。
 酔っぱらってクドクド言ったら、妹が「なにかに書いておいて」などと言ったのでここに書いたぞ。
 帰りに再び小ぎれいなバアさんを見ました。上空を見上げ、車庫の支柱をたたき続けているのです。上空にはキーキー鳥の群が乱舞していました。この季節、問題になっているムクドリの大群の来襲なのでした。奴ら、寒さを避け、南に渡のだそうだ。まるで、ヒッチコック映画のシーンのように歩道沿いの電線にとまり群れています。歩道は、奴らのクソで真っ黄色に染まるほどなのです。歩道に面した家々は、どこもたまったもんではないだろう。
 …そうか、バアさんボケたわけではなかったのだな。ムクドリと戦っていたのだな。うすらボケた、などと思ってしまい申し訳なかった。ムクドリが南へ去るのには数日かかるだろう。健闘を祈る。