#024.NYRF partⅢ 運転がうまい女は喧嘩も強い説

 NYRFの興奮冷めやらぬまま、夜明け前に福生の友達に新年の挨拶をしてから、五日市街道を東進しました。運転しているのは女です。その女は、免許を取ってすぐ、走り屋系の車を買っていたのでした。
 片側一車線の五日市街道、後ろを走っていた車に追い抜かれた瞬間にスイッチが入ってしまいました。「追いかけろ」と言ったおれの指示に、女はスピードを上げます。
 追いつかれまいとしてさらにスピードを上げて逃げる前の車目がけ、おれは助手席側から車の中にあったもの、封を開けていない缶ビール、カセット・ケース、車香水瓶などを投げつけました。
 それでも止まろうとしない前の車。おれは「信号が赤になったら前に出て道を塞げ」と指示しました。やがて「天王橋」というやや大きい交差点で進行方向が詰まったのか、前の車がスピードを落としました。
 女は、対向車線に出て前の車をかわし、サイドブレーキを引いて車を横に滑らせました。五日市街道の上下線を封鎖したのです。もう薄々はわかっていたのですが、こいつ運転うまいなと思いました。
 助手席を出たおれは、相手の車から運転手を引きずり出します。まずいなと思ったのは、その車にはあと2人の男が同乗していた点です。しかし、もう後には引けません。女が封鎖した五日市街道は渋滞が始まっていました。
 運転手とやり合っていると、相手の車からもう2人の男が下りてくるのは見えたのですがこちらには来ません。どうしてだろうと思いました。
 なんと、女が2人の男の相手をしていたのです。話し合っていたわけではなく、やり合っているのです。女が、見事なフォルムでパンチを繰り出すのが見えました。すでに2人のうち1人は鼻血を出して戦意喪失の様子です。
 近隣の住民でしょうか、「110番、110番」という声が聞こえ、野次馬の数が増えてきました。運転手とのけりをつけたおれは、女に「行くぞ」と指示を出し、車を出させました。
 おれは、右の人差し指骨折を後日知ることになりましたが、女はまったくの無傷でした。女のあの美しい左右のワンツー、きっと忘れることはありません。喧嘩も強いんだな、とわかったのでした。
 その後、その女とはしばらく付き合いました。そして、おれはその女に2、3度ブッ飛ばされることになるのでした。
 おしまい