大晦日のNYRFに出演させてもらえるので、とても興奮していました。緊張ではなくワクワク感です。演奏したのは4曲、15分間でした。
演奏を終え、「おまえら、あんまり興奮すんなよ。ここに出てる奴らは前科もんばっかりじゃねえか。ろくなもんじゃねえんだよ」とMCして客席にうけました。そして下手袖に下がったのですが、そこにいたのは安岡力也さんでした。スエットの上下を着て、横にも上にもとにかくデカかったです。
「おい、おまえら、ついてこい」と言われました。意味がわからなかったので「えっ?」ときき返しました。すると力也さんは、少々怒ったように語気を強め「いいからついてこい」と言ったのです。
しかたなく力也さんの後をついていきました。浅草常盤座の狭いつづら折りの裏階段を上へ上へと昇っていきます。振り返ると、メンバーやスタッフなど誰ひとりとしてついてきていません。
スエットに両手を突っ込んだ力也さんは、ときどき獣のように「あー」とか「うー」とか唸り、首を回しながら歩いていきます。
ああ、このままおれは常盤座の屋上に連れていかれ、ブッ飛ばされるんだろうな。抵抗なんかできないから、すぐに気絶した振りしよう、と覚悟しました。
ところが、最上階まできた力也さんが「入れ。入って挨拶しろ」と言った部屋の中に、たったひとりその人がいたのです。裕也さんでした。
何台ものテレビモニターを前にして、インカムを装着した裕也さんは指示を出していました。やがてインカムを外し「おつかれ、よかったぞ、楽しんでけよ。喧嘩すんじゃねえぞ」と言って、内田裕也と筆書きした祝儀袋をくれたのでした。
そして、午前0時のセレモニー。ステージの上、裕也さんの真後ろで参加させてもらいました。
オールスタンディングの客席、演奏が始まる前から大混乱です。裕也さんが客席に向かって指差し叫びます「おい、そこ、あぶねーぞ」「おい、おまえ、こっちだ」。客席には裕也さんのスタッフらが配置されていたのです。裕也さんは、すし詰め状態客席危険回避をスタッフに指示していたのです。演奏が始まって以降、「ハッピー・ニューイヤー」のカウントダウンまでずっとそうでした。
そうか、あの数年前、テレビの画面に向かって指を差し叫んでいたのはこういう状況だったのか。客席警備に指示を出していたのか。
控室でインカムを装着してカメラの配置を差配し、出演者に祝儀袋を手渡し、自らもステージに立つ。全部自分で仕切っていたのか。
こうして、興奮の大晦日が過ぎていったのでありました。
つづく