#014.ご飯べちゃべちゃ問題

 近所に個人営業のとんかつ屋がなくなってしまった。10年前には3軒もあったのに、気がつけばすべて廃業。
 とんかつに限らず個人営業店は、その味わいに機微があるでしょ?それがいいのだけれど、東京郊外この地域に生き残るのはチェーン店系ばかりの時世といったところか。
 そんな折、亡くなった洋食屋親父の跡を継いで二代目が営業を再開させた、との噂を聞いて食いにいってみた。
 4人掛けテーブル席3組、8人掛けカウンターの店内。そのカウンターの向こう側に調理台があるようで、調理さばきがちらと見える。頼んだのは「とんかつランチ」。
 まだ若い、それこそ40歳代とおぼしき兄さんが持ち出したのはロース状ブロック肉。兄さんは、それを厚切りにカットしたのであった。兄さんやるじゃんか。
 厚切りにした肉片に粉を振って卵にくぐらせ、パン粉を着せる一連の流れがカウンター越し兄さんの上半身の動きで想像できた。
 そして、時間をかけての低温揚げ。しばらくして出てきたのは、ご飯と味噌汁と漬物、そして大皿にカットして盛られた厚切りとんかつ。
 兄さん、やるじゃんか。
 和辛子にソースをちょっとだけ振って食べた肉が、サクっとやわらかいこと。うまいじゃんか、うまい…、ん?
 なんか不思議な味がしたのね。最近の流行りなのであろうか?かつの衣の味わいが若干洋風なのだ。…そうか、ソースの量が少なかったのか、それではソース量をやや増やしてふた切れ目。ん?さらに洋風味が増していたのである。
 よく見ると、大皿の上方に配置されたキャベツおよびカット・トマト、スライス胡瓜に強引にフレンチ系ドレッシングがかけられており、その液体が大皿の中央から下方に配置されたとんかつ裏面に回ってしまっていたのだ。あの、とんかつ乗せ半月状網がなかったのね。
 とんかつ衣が、時間経過と共に、フレンチ系ドレッシングをたっぷり吸収していたのであった。
 近隣市の、むかしから有名うなぎ屋が代替わりしたら「うな重のご飯がべちゃべちゃだった」という話を同時期に何回か聞いた。うな重のご飯べちゃべちゃは致命的だよな。
 食いもの屋に限らないのであろうが、二代目三代目後継問題は大問題なのですね。