#110.とらおくんたち⑤アメショーのチー坊

 チーはアメリカン・ショートヘア雄の子猫。なので、チー坊と呼ぶようになりました。生れて間もない、まだ体躯とは不釣り合いに顔のデカい猫でした。
 アメショーにチーなんて不似合いだよ、との意見に、お袋はまったく意に介しません。「むかしから、うちの猫はチーかミーなんだよ」と。
 北関東の大店にもらわれていったとらおくんの件もありましたし、あれほどNGを出していた親父も、渋々しかたなしに半承諾といった具合。懐こうとするチー坊に横目で舌打ち、といった有様でした。
 かくいう親父も、やがて猫との同居に慣れたようで、チー坊に餌やりをしていました。ただ、餌やりの際に、チー坊にお座りとお手とおかわりの芸を仕込んでいるのです。猫に、お座りやお手やおかわりの芸など仕込んではいけない、と指摘しました。しかし、親父はその進言をまるで意に介しません。そして、なんと、やがてチー坊はちゃんとお座りとお手とおかわりができるようになったのです。
 すくすくと成長したチー坊でした。アメショーですから家猫です。家のどこにいても名を呼べば鈴の音がスッ飛んできました。
 飽きることなく窓越しに外を眺めていて、きっと外に出てみたいのだろうな、とも思われましたがそれは許されませんでした。たしかに、外をうろうろ歩き回っているアメショーなんて見ませんもんね、まっとうな話です。
 ただここで、チー坊に試練が訪れるのです。思春期前に玉を取るという案件が浮上したのです。思春期前に去勢することで、尿で家内を汚す行為がなくなる。および、こういった猫種には長命の効果もある、とのことでした。
 おれは、同じ男として、チー坊の玉取りには強く反対しました。だって、そうでしょ?チー坊だって、徹底的に青春的にいきたいに決まっていますから。しかし、いくら強く主張したからといって、おれの意見などまったく功を奏すはずはありません。チー坊は、さっさと玉を取られてしまったのです。
 ただ、その処置によってチー坊の仕草性格、見た目になんの変化も起こらなかったことがせめてもの救いでした。やたら虫には強く、窓の外の鳥にビビリまくる性格は生来のもののようで変わりありませんでした。チー坊はお袋の愛猫として、家の主人公として育ったのでありました。
 そしてある日、これまた突然、そこにミー子が登場するのです。
 ミー子は、瀕死状態の野良子猫でした。家の車庫奥の庭に倒れていたそうです。それを見つけたお袋が興奮してペット・クリニックに救急搬送。獣医の診たて、延命したとしても後遺症が残る、との診断に積極的処置を要請。しばらく入院、なんとか命をとりとめ、チー坊同様、実家の飼い猫となったのです。
 チー坊用とは別に、ミー子用の猫砂トイレとエサ皿と水飲み皿が配置され、たった二匹とはいえ、やがてお袋と親父が住む実家は猫屋敷化するのでありました。 つづく