黒茶犬パピオが亡くなって以降、もう二度と生きものは飼わない、との親父の達しがありました。なので、しばらく犬や猫には縁がなかったのです。
ですが、嫁に行って実家の斜め前のハイツに暮らすようになっていた妹一家が、たびたびの頻度でヨークシャーテリアを人から預かるようになったのです。ブラック&ゴールド、雌の老犬でした。名前はマリ。
マリは白内障を患っており、すでに視力がほとんど失われているとのことでした。なので、室内にいてもものにつまずいたりしていたようです。
しかし、このマリは毛並みが美しく、じっと座っているとまるで置物の美術品のようなのでした。なので、マリ見たさに妹宅を訪ねるのですが、とにかく警戒されて相手にされませんでした。もう、おれが玄関に入っただけで吠えまくるのです。慣れているのは、家族の中で妹だけだったそうです。
マリの飼い主は、むかし二軒長屋の我が家隣の旧米軍ハウスに暮らしていたおばさんです。おばさんといっても、もうおばあちゃん。血縁ではないのですが、子どものころから犬猫が好きだった妹がいつもおばさん宅に通っていたのでした。当時、サトという白い毛の雄マルチーズがいました。
妹は、まるで自分の犬のようにサトを可愛がったそうです。サトが紡いだ妹とおばさんの縁、サトが亡くなるとおばさんはすぐにマリを飼い始めたそうです。
やがて、我が家は二軒長屋の隣町に移ったのですが、妹は足しげくおばさん宅に通っていました。もちろんマリに会うためにです。妹とマリは、互いの成長を見守ったことになるのでした。
おばさんはおばあちゃんになり、入退院を繰り返すようになりました。おばさんが入院するたびに、妹はマリをケージに入れて自宅ハイツに連れてきていました。マリには、ふたりの飼い主がいる状況だったのです。
最後の長い入院後、残念ながら、おばさんが退院することはありませんでした。
おばさんが病院でつかっていたケープをマリのケージに入れてあげたそうです。マリはケープの匂いを嗅ぎ続け、その上に伏せると、ずっと動かなかったそうです。
そんな冬の日、とらおくんが登場したのです。12月のある朝、車庫にあった親父の車のタイヤの上から現れたそうです。猫が、勤めから帰った親父の車のタイヤ上に住みついていたのです。真冬の寒さでもエンジン・ルームに近いタイヤ・ハウスは暖かいでしょうから。利口な猫だ、とお袋が讃えていました。
乳離れはしているようでしたが、とにかくまだ小さく、体長は15センチにも満ちません。人恋しいのか、そばに行くとやたら懐くのです。「おまえはどこから来たんだ?」グルーミングしながら「ミャアミャア」といった具合に、です。
親父が勤めに出た日中は、日当たりのいい車庫内で過ごしていたようです。茶虎の子猫、玉がちゃんと2つあったので、とらおくんと名付けました。 つづく