#075.サンフランシスコの青~い空

 埼玉県南中部のひとを訪ねるために路線情報を検索した。概ね西武線乗り継ぎを薦めているのだが、その中にJR八高線、東飯能駅経由のものがあった。ということは、横田基地西側を通るルートなのだ。高校時代に東京都西多摩郡瑞穂町の友人宅を訪ねて以来、それこそ数十年ぶりに乗ってみることにした。
 八高線は単線で運行本数が少ないので遅れてはならず、ということで早めに拝島駅に赴き、八高線ホーム最前列乗り位置で下りを待った。…そうか、かつてはディーゼル駆動だった八高線も電化されて電車になったのだな。しかも、ワンマン運行化されているではないか。昼過ぎの車両はひともまばらで、先頭車両の眺望絶好立ち位置を独占状態はうれしかった。
 それにしても、このワンマン運行化で運転士は大忙しの様子。頭上のホームモニター2つを確認しながら扉を閉じ、計器類右にあるタブレットを確認、中央の時計を確認、すべて指差し声出しで、だ。そして素早く発進。そうだよな、これまでのふたり分をひとりでやっているのだからな。大丈夫なものなのだろうか。
 ちょうど80年前の終戦直後、8月24日に、八高線は多摩川にかかる橋の上で正面衝突事故を起こし、たくさんのひとを亡くしている。うちの近所にその車輪が遺物として展示してあるのを見たことがある。ワンマン化、やや心配だ。
 やがて電車は東福生駅に到着。おお、なんと、米軍ハウスが数件残っているではないか。外壁も朽ちることなく保たれている。ハウスを維持管理、残存させる意思で手を入れている、ということだ。むかし、このハウスを使わせてもらって映画のワンシーンを撮影したことがあった。主演女優さんの控室はこの近所にあったおれのハウスだった。音楽を担当させてもらって、ハウスで作曲した。まだまだ若かった大郷良知がsaxophoneでいいフレーズを吹いた。
 東福生駅を出た車両は狭い敷地の線路を北進する。やがて左右に、高く頑丈そうなフェンスのむこう、カリフォルニア州サンスランシスコが見えてくる。日本国における横田基地は治外法権、住所的にそうなるのだ。午後のあつい日差しの中、広い芝生に水まきをする赤い短パンの金髪おねーちゃんが見えた。
 基地に入り組むようにして日本人住居もあるのだが、もうハウスを見ることはできなかった。平屋建てハウスをつぶせば、二階建て住宅が2、3軒建つのだからどんどん壊しちゃうわけだ。かつておれが住んでいたハウス脇を通過したが、立ち並ぶ二階建て住宅群で隠され、見通すことはできなかった。
 きっと、もうないのだろうな。おれが住んでいたときでも、屋根外壁が近所でいちばんボロいハウスだったもんな。バスルームがやたらデカくて、内装のタイル貼りが白やブルーのアメリカンだったよな。夏は徹底的に暑くて冬は極寒の安普請ハウスだったけれど、そんなことぜんぜん平気だったよな。青春的だったのだな。
 ♪Baby、まだ長い髪のままかい?