#047.酒がまずい

 この年末にきて、衝撃の事態に遭遇してしまった。まったくもって予想だにしなかった状況。ものの見方、考え方を一変させてしまうほどの感覚なのだ。なんと、酒がまずいのである。
 一年中、一日も欠かすことなく、あれほどまでに待ち焦がれていた夕方の一杯がおいしくない。ビールも焼酎もワインも日本酒もまったくまずい。そしてそして、ついに酒を飲まない日、というものを久々にすごしてしまったのだ。
 …要は、風邪をひいたのね。それも、やや重症的なやつ。ろくに飯も食わず、一日中おもてでウロウロしなければならない日があった。悪寒がして、嫌な予感もあったので、それが原因と思われる。
 そんなときは、寝る前に市販の風邪薬を飲めば翌朝には改善されていたのが常であった。しかし、今回はその効果もなし。驚いたことに、さらに酒がまずい、ときた。これは異常だ。そう判断し、町医者にかかった。
 まず、医院受付けで問診表を書かされ、血中酸素濃度を測るから指を出せと言われた。差し出した指を上下に挟む緑色の、その内側に針でもついていて痛いのではないか、とやや怯んだ。が、そんなことはなくて安堵。
 計器を持つ看護師が、「測定不能ですね」などと言うので再びブルった。が、指が冷えていると測定できないとのことで再び安堵。やがて出た数値が99。マックスは100だと言う。そんなに重症なのですか?と問うと、そうではなく99は良好数値とのことで三たび安堵。
 医師の診断。胸と背中を裸にたくし上げて聴診器をあてられた。マスクを外して喉の奥を懐中電灯で照らされてのぞかれた。幼少時以来、久方ぶりの羞恥プレイ。受付けの看護師に、平熱ですと伝えた嘘がバレて体温を測られた。37度2分とのこと。そりゃそうだ、悪寒がするのだから微熱くらいあるだろう。
 「対処療法でいいでしょう。薬を処方するので安静にするように」とのことであった。
 急遽、それから数日間の予定をキャンセル。人に無理して会って、風邪をうつしたりしたら迷惑だ、と考えたのである。安静にせよなどと言われなくても、処方薬の効き目が強烈でフラフラ状態。横になってテレビでも眺めるが精いっぱい、といった状態なのであった。
 とはいえ、飯も食わなければならないし、洗濯もしなければならない。食い終わった食器は洗わなければならないし、洗濯物は取り込んでたたまなければならない。ドッsolo生活者の辛いところだ。
 しかし、そんなことは言っていられない。将来を考え、そのリハーサルだと思って勤しむしかないのであった。すると、よくしたもので、まずいと感じたビールの一杯目がおいしくなったのだ。けれど、二杯目以降がおいしくない。
 これが、徐々に改善され、全開の年末年始を迎えられたらいいのだが。トホホ。