#030.Get a speed AHEAD

 ソニーのDATデッキが壊れて困ってしまった。しかも、二台同時に。
 DATとは、デジタル・オーディオ・テープのこと。かつて、音楽製品のマスター音源の主流がDATだった時代があった。当時の音源を求められたりした場合、このデッキが動作しないとどうしようもないのだ。
 ソニーに電話したところ、持ち込み修理受け入れ窓口は、秋葉原と大阪と那覇にしかないとのこと。
 ハードケースに収納されているとはいえ、精密機械でもあるから宅配便は怖い。一台分15㎏もあるので、車で秋葉原まで行くしかない。腹立つわ、ほんと。
 秋葉原は近くないので、旧盆時期、東京都内の道路が空いている時期がいい。ハードケースのまま二台を持ち込むので、午後いちの時間帯に説明を兼ねて修理受け入れをしてください、この野郎、となった。
 案の定、高速道路も都内一般道もガラガラ。一時間もせず秋葉原に到着した。
 ソニーの窓口で、二台とも新品で買ったのですよ。二台同時に壊れたのですよ。世でいうソニー時間ということですか?ちゃんと直してくださいね、この野郎、と訓辞を垂れて二台納入。
 さあ、これでOK。さっさと帰って、ちょっと早いけど昼飯にビールでも飲もう、となったのです。と、ところがです。秋葉原から靖国通りに入った途端、すっごい渋滞。とろとろしか進まないのです。
 神保町の交差点付近にきて、その理由がわかりました。あの、けーさつとかじえーたいのデカい装甲車が左右両車線にビッシり止められているのです。おまーりさんの数も尋常ではありません。上空には、何機ものヘリコプターがホバリング状態で飛んでいます。…これは、なにかあったな。事件か事故か?
 と、そのとき、右折車線にいた装甲車がどいたのでハンドルを切った瞬間、後ろからきた白いボクスターに接触寸前で先に行かれてしまったのです。
 あれ、もしかしたらあおり運転か?この野郎と、ボクスターを追って右折。ボクスターの屋根を開けたルームミラーに、黒サングラス女の顔半分が見えました。彼女がハンドルを切るごとに、黒く長い髪が左右に揺れています。
 靖国通りから右折した道はうそのようにガラ空き。ボクスターから離れず内堀通りに入り、お堀沿いストレートを西進。四谷坂上まで、あっという間でした。
 赤坂迎賓館脇のスクランブル交差点が赤だったことを見越してか、ボクスターが減速しました。しかし、追い抜くことはせず、ずっと後ろに付けます。
 やがて、信号が青に変わってダッシュするボクスター。東宮御所脇のアップダウンを抜け、神宮外苑の高速コーナーが終わるまでのランデブーでした。
 おれが首都高外苑入口へと左折したので、残念ながらここでバイバイ。
 夕方、飲んだくれて観たニュース番組で、その日が8月15日であったことを知りました。「深い反省」の上に立った、のでございます。