若いときに優生保護法の適用を医師や家族に勧められた同年代女性の話を聴いたことがある。彼女には心臓疾患があった。
彼女にとって、妊娠や出産は大きな負担になるし、生れた子どもにその疾患が遺伝するのではないか?という危惧からだった、と。
どうしても納得いかなかった彼女は、ひとり悩み、周囲の勧めを拒否った。
やがて彼女は、ふたりの子に恵まれた。曰く「子育てが大変ではなかった、とは言わないが、あのとき優生保護法の適用を受けずによかった」と。
ふたりの子は、無事、成人した。
優生保護法下、優生手術が適用された件数は二万五千、人工妊娠中絶は五万九千件あったという。第二次大戦後から1996年までの間だ。
そもそもこの法律は、立法された段階で憲法違反であるとの判決を最高裁が下した。
この話はわかりやすい。小学四年生に質問されたとしても、順序立てて説明すればきっと伝わる。いい社会勉強になるだろう。
それでは、今回の東京都知事選、一連の広報やポスター掲示等問題についてはどうか?まあ、これらを目の当たりにしたのは東京地域に限られてしまうのだが。
裸同然女の写真で耳目をあつめたかった、などは論外。
しかし、小学二年生に「どうして犬のポスターがたくさんあるの?」と問われたらどう応えるのか難しい。
公職選挙法は、がんじがらめに規制の厳しい法だそうだ。その中において、政見放送と選挙ポスターについては、ゆるく認めている仕組みなのだとか。
「ふーん、そうなんだ。…それじゃあ『男女のデート割り勘化』ってどういうこと?」ときたらどうか。
それはね、デートするにはお金がかかるでしょ。そのお金を、男側が全部払っても、女側が全部払っても大変でしょ。負担が大きくなっちゃうよね。
小学二年生には、「割り勘」の説明から始めなければならない。
しかし、「…そうか。でもさ、知事さん選ぶのにどうしてデートのお金の話が関係あるの?ねえ、どうして?」とこられたらアウト。もう、話はそこから先には進まないのであった。
街中の選挙ポスター掲示板が、さっさと撤去されてよかった。こういった状況を報じられないマスコミもそうだろうけれど、どうにも不快で、やりきれない選挙期間だった。