#022.NYRF partⅠ その人

 むかーし昔、ある所でおじいさんとおばあさんが、ではなく、高校生がタバコを吸いながら麻雀をやっていました。ときは大晦日の夜。
 誰かが「紅白観ようぜ」と言ったのに対して、別の誰かが「紅白なんか観ねーよ」と言って点けたのがテレビ東京の番組でした。
 どうやらその番組は、いわゆる音楽フェスで、様々なバンドが代わる代わる出演し演奏するというものだったのです。生放送とのことでした。
 興味深いのは、バンドが入れ替わるたびに登場する人でした。
 たったひとりで登場するその人は、「このやろう」の喋り口調で有名人を実名で名指しし罵倒しているのです。名指しされた有名人の中には、ちょうど真裏で放送されている紅白の出演者もいます。こんなことテレビで放送していいのかよ的に。
 しかも、やたらとテレビ画面に向かって指差し「おい、そこ」とか「おまえ、そこ、ばかやろう」とか言うのです。
 ときには、突然客席の最前列に手を伸ばしてなにかを叫んだり、足元のなにかを蹴上げたりもしているようです。とにかく落ち着きがないので、生放送のカメラではそれを追いきれないようでした。
 田舎もんの高校生にはとても刺激的で、麻雀なんかそっちのけ、釘付け状態でその番組を観ました。胸の鼓動がドキドキ高鳴ったのを覚えています。
 そのフェスの名は、NYRFニューイヤー・ロックフェステイバル、やたら吼えるその人は内田裕也さんなのでありました。
 やがて深夜0時が近づくと、ステージに大勢の人々が登場し、裕也さんを中心にして英語の歌を合唱しました。そして、皆で「ハッピー・ニューイヤー」と盛り上がったのです。なので、幼いころから恒例だった「ゆく年くる年」は観ませんでした。
 まさかその数年後、そのフェスに出してもらえるとは、まったくもって想像の余地などなかったのです。
 そして、まさにこの日が、生涯不治のRock’n Rollが止まらない症候群に罹患した日でもあったのでした。
 つづく