#006.さらにさらに恐怖のせりふ

 「恐怖のせりふ」を2つ書いたら、さらにさらに怖かったせりふを思い出してしまいました。もう、これ以上怖いのは勘弁してください、何卒よろしくお願いいたします的なやつね。
 十代からロックバンド活動に夢中で、声がかかればどこへだって行く、ギャラがいくらだってやる、と徹底的に青春的だったわけです。だから、よく騙されたものです、金払ってもらえないでね。
 夏は海方面、冬はスキー場方面から声がかかるのですけれど、たいがい中間にプロモーターみたいな奴が絡んでいて、金払わないで逃げちゃうのですよ、そいつが。そんなことばっかりでした。でも、演奏したい部分が徹底的に青春的なわけですから、懲りずに騙されまくっていました。世間じゃ「サーフ&スノー」なんて盛り上がっているのにも関わらず、お粗末な結果の連続。
 そのうち、その中間に絡んでくるプロモーターをできるだけ排除するようにしました。騙されないようになっていったのです。そうすれば、ギャラの金額も上がりますから。しかし、仕事を請け負う上での責任も大きくなっていったというわけです。
 夏の50日間、海辺ホテルのバルコニーで演奏するという仕事を請けました。自分のバンドで50日連続でなんか演奏できないので、7日間区切りで他のバンドもブッキングしたのです。その中に、唯一、女子大生5人編成のバンドがありました。ホテル側も喜びましたね。他は全部、男のバンドばかりでしたから。
 さあ、来週からはその女の子たちの出演だとなったある日、おれはそのバンドのメンバーから直電で駅前のKFCに呼び出されたわけです。そのバンドのことは、うちのバンドのスタッフをやっていた大学生に任せていました。丸顔で、ちょっと童顔のバカ野郎です。 
 KFCの二階には、ボーカルを除いた他のメンバーが全員いました。
 曰く、海辺ホテルへの出演は断ります。おたくの担当者がうちのボーカルを井之頭公園に呼び出していたずらしました。言うことをきけば、今後いい条件で出演させると関係を強要されました。
 彼女はショックを受けています。もう二度と電話しないでください。強制わいせつだと思います。「警察にいっちゃうから」。
 もちろん、KFCの床に手をついて詫びましたね、それだけは勘弁してくださいと。いま思い出しても震えますね、怖くて。

 この物語はノンフィクションで、登場人物設定等、すべて実際に存在したことです。